下 肢 静 脈 瘤( かしじょうみゃくりゅう )は足 の 血 管 の 病 気 で す 。
下肢とは足のことで、静脈瘤は血管(静脈)が 文字どおりコブ(瘤)
のようにふくらんだ状態のことをいいます。
下肢静脈瘤の症状はほとんどがふくらはぎ におこります。足に血液がたまることによっておこるので 、午後から夕方に症状が強くなるのが 特徴です。しかし 、足の症状は変形性膝関節症や脊柱管狭窄症など他の病気でもおこるので 、心配な方は専門医を受診してください。
静脈の中には静脈弁があり、立って
いる時に血液が足の方に戻ってしまうのを防いでいます。この弁が壊れると、血液が逆流してその下にある静脈に血液がたまってしまいます。血液がたまった状態が毎日毎日、何年も続くと徐々に静脈の壁がひき延ばされて太くなります。さらに太くなると静脈はヘビのようにグネグネと曲がりくねった状態になります。この静脈が曲がりくねった状態が「下肢静脈瘤」です。
下肢静脈瘤は表在静脈 ※1 におこり、深部静脈 ※2 にはおこりません。下肢静脈瘤は見た目が悪くなるだけではなく 、汚れた血液が足にたまったり、静脈の中の圧力が高くなることによる炎症によって様々な症状がおこります。
下肢静脈瘤は、40歳以上の女性に多く認められ、年齢とともに増加していきます。日本人では15歳以上の男女の43%、30歳以上では62%もの人に静脈瘤が認められたとの報告もあります ※3。
40歳以上を対象とした調査※4では 、全体で8 .6%(男性 3 . 8%、女 性 11. 3%)に認められ、患者数は1,000万人以上と推定されます。また、
出産経験のある女性の2人に1人、約半数の方が発症するというデータ※5もあり、下肢静脈瘤はまだまだ認知はされていませんが、実は身近な病気なのです。
下肢静脈瘤は目で見た太さによって伏在型(ふくざいがた)・側枝型( そくしがた )・網目状・くもの巣状の4種類に分類されます。一般的に症状があり、外科的な治療が必要になるのは伏在型静脈瘤だけであり、他の3種類は軽症であまり心配のない静脈瘤です。
※3 平井正文,久保田仁,川村陽一他 脈管学28:4 l 5-420, l 989
※4 小西ら 2005年西予地区コホー ト研究(愛媛県西部の1市5町の40歳以上の住民を対象として愛媛大学公衆衛生学教室 小西正光教授によって2002年から勧められている調査)脳卒中および心筋梗塞既往者を除外した 9,123人(男性3,302人、女性5,821人、平均年齢62.4歳)における 「下肢表面が盛り上がって蛇行している血管で、かつ起立すると目立つもの」と定義された静脈瘤(表在性静脈瘤:伏在、側枝、網目の一 部と考えられる)の出現頻度です。
※5 平井正文,牧篤彦,早川直和:妊娠と静脈瘤静脈学:255-261,1997
静脈瘤のタイプ・患者さんの状態によって異なる治療法
下肢静脈瘤の治療には 、主に下記の5つがあります。それぞれの治療にはメリットと注意点がありますので、静脈瘤のタイプや患者さんの状態によって適切な治療を選択する必要があります。
ストリッピ ング手術は、足のつけ根と膝の内側の2ヶ所を1~3cmほど切り、 静脈の中に細い針金(ワイヤー)を入れてワイヤーごと静脈を抜き去る方法です。通常、全身麻酔や脊椎麻酔を用いて入院で行います。病気のある血管を全て取り除いてしまうため、高い治療効果が期待できます。しかし、血管内治療に比べて傷口が大きく体への負担が大きいため、回復までに時間がかかったり、手術後の「痛み」や「出血」などのリスクがあるとされています。
血管内焼灼治療は、ストリッピング手術のように静脈を引き抜いてしまうかわりに、静脈を焼いてふさぐ治療です。細い管(カテーテル)を病気になった静脈の中に入れて、内側から熱を加えて焼灼します。焼いた静脈は、治療後半年ぐらいで吸収されてなくなってしまいます。局所麻酔で細い管を差し込むだけなので、日帰り※6で治療ができる低侵襲治療です。血管内焼灼治療には高周波電流 を使う高周波(ラジオ波)治療と、レーザーを使うレーザー治療があります。高周波およびレーザー治療ともに保険適用されています。
※6 医師の診断によります。
血管内接着材治療は、2019年12月に保険適用に1なった治療法で、下肢静脈専用に開発された医療用接着材(グルー)を、カテーテルで治療する血管内に注入して血管を閉塞します。熱によって血管をふさぐ血管内焼灼治療と比べて、熱を伴わない血管内接着材治療は、やけどや神経障害など周辺組織への影響や痛みが少ないといった低侵襲性が大きな特長です。
また、血管内焼灼治療では熱による痛みや合併症に対する対策として必須であったTLA麻酔※7が不要となるため、針を刺す回数が減り、麻酔浸潤時の痛みや術後圧迫の必要性も低減されます。ただし、血管内にグル ーを 注入するので、グルーに対するアレルギーやアレルギー体質の方は治療を受けられない場合があります。
※7 TLA麻酔とはTumescent Local Anesthesia(低濃度大量浸潤麻酔)の略。低濃度に希釈した局所麻酔薬のことです。血管内焼灼治療では、痛みの軽減や焼灼 による熱から周辺組織を守るために、治療する血管の周囲に注入します。
硬化療法は、下肢の静脈瘤に薬を注射して固める治療です。固めた血管が硬くなることから 硬化療法と呼ばれています。硬くなった静脈は、半年ぐらいで吸収されて消えてしまいます。 外来で10分程度で行うことができます。硬化療法は、軽症の下肢静脈瘤には有用性の高い治療法ですが、進行した静脈瘤には治 療効果が期待できない場合もあります。また、薬剤によるアレルギーや色素沈着がおこることがあります。
運動・マッサージなどによる生活習慣の改善や弾性ストッキングの着用など、手術や薬以外の治療法を保存的治療と呼びます。他の治療法と 異なり根本的な治療ではありません。弾性ストッキングは、足を締めつけて、ふくらはぎの筋ポンプ作用を助けることによって静脈還流をうながし、足に血液がたまるのを防ぎます。正しく着用すれば、下肢静脈瘤の症状の緩和に大変役に立ちます。しかし、履くのが難しかったり、かぶれなどのトラブルをおこすことがあり、長く履き続けることが難しいものでもあります。
下肢静脈瘤は気づかないところで徐々に進行していく病気です。さらなる病気の進行や悪化を防ぐために、日常生活の中で次の点に気をつけましょう。
適度な運動をしましょう
休日なども家の中でじっとしている生活ではなく、適度な運動を心がけましょう。体を動かすことで血流がよくなり、足の筋力を高めて下肢静脈瘤を予防します。反対に激しい運動や長距離のジョギングなどは避けるようにしましょう。
バランスのとれた食事をとりましょう
塩分や油分の多い食事が多くなっていませんか?バランスのとれた食生活を送ることで、下肢静脈瘤の原因になりやすい肥満や脂質異常を予防し、血流改善や静脈への負担を軽くすることができます。
締め付けの強すぎる下着の着用は避けましょう
スリムなボトムスなどに合わせて、窮屈なガードルなどの下着で体を締め付けると、下半身の血行が悪くなって下肢静脈瘤を悪化させます。また、ハイヒールは歩く時に足のふくらはぎの筋肉が十分に使えないために、血液の循環が悪くなりますので、ヒールの低い靴を履いてしっかりと歩く期間も取り入れましょう。
弾性ストッキングを活用しましょう
弾性ストッキングは、足首からふくらはぎ、太ももまで段階的に圧 迫することで血行を効果的にキープする、医療用のストッキングです。下肢静脈瘤の予防や悪化を防いだり、治療後のケア、さらにはむくみ対策にも役立ちます。自分の足に合わせたサイズやタイプを選び、正しい履き方で着用するようにしましょう。
弾性ストッキングの種類